教員紹介
2021年5月27日
奥村綱雄教授は、計量経済学の新しい研究方法である「部分識別」(Partial Identification)を発展させる理論研究と、部分識別を用いた実証研究を推進しています。経済学では、「教育を受けることによって人々の所得はどれだけ変わるか」、「経済政策がGDPや物価にどのような影響を与えるか」など、「原因が結果に与える効果(因果効果)」を、データを用いて測定(識別)することが最重要の研究課題です。そうした課題に対して、従来の計量経済学では、データの分布や因果効果を表す関数に対して多くの仮定(前提条件)を置くことにより、因果効果を、ある値(一か所の「点」)として識別してきました。
それに対して奥村教授は、供給関数を表す「増加関数の仮定」や、需要関数を表す「減少関数の仮定」、限界生産性逓減の法則を表す「凹増加関数の仮定」といった、多くの人々が納得するような最小限の仮定を置いた上で分析すれば、因果効果をどこまで正確に識別できるかについて研究し、それは、一定の「区間」として識別できることを証明しました。そして、その研究結果を、「需要ショックと供給ショックの推定」や、「教育を受けることによる所得増加の推定」に応用し、従来の「点識別」による推定結果を覆す「部分識別」による推定結果を示しました。
これらの研究成果は、計量経済学のトップクラスの査読付き国際学術誌であるQuantitative Economics (Econometric Society)や、Journal of Business & Economic Statistics(アメリカ統計学会)等に掲載されています。また、これらの紹介を含め、「部分識別」研究の初めての解説書『部分識別入門:計量経済学の革新的アプローチ』を出版しています。