教員紹介

財の需要不足による失業が持続するメカニズムを解明

2022年10月18日

小川翔吾講師は、市場の需給不均衡を取り扱う理論研究において、財需要の不足によって発生する失業が、賃金の高止まりによる失業よりも持続するメカニズムを解析し、定式化しました。

近年、長期的な停滞や不況を数理モデルで説明する際に、市場の不均衡の枠組みを使用する分析が行われています。例えば、労働需要が供給に比べ低い水準で留まる場合は、失業が発生することになります。

本研究は、ある市場の不均衡が他の市場の取引に波及していく過程を明確にモデル化し、財市場での需要不足による失業期間が、労働市場の硬直的な賃金による失業期間よりも長引くことを明らかにしました。

企業が売上(=財需要)の不足に直面した際に労働需要を減退させると雇用が減少しますが、この雇用減少が家計の消費財需要をさらに低下させることで負の効果が蓄積し、失業が深刻化・長期化しうることになります。もし労働市場の高賃金のみが失業の要因である場合は家計の消費減退による失業への負の効果は観察されず、失業は賃金低下によって相対的に早期に解消します。本研究は、市場の不均衡をモデル化する際に(これまで明確にされていなかった)市場間の需給の関連性や取引数量の漏出効果を考慮する必要があることを強調しており、今後の不況分析の発展が期待されます。

本研究は、国際学術誌「Structural Change and Economic Dynamics」(2022年9月)に掲載されました。

図:数値計算によるアメリカ経済のシミュレーション。e/lsは雇用率を表す。初期時点で発生していた硬直賃金による失業は急速に回復するが(グラフ左端)、その過程で財需要が不足する局面にスイッチし、売上不足による失業が長期的に持続する。

書誌情報

Ogawa, Shogo, Monetary Growth with Disequilibrium: A Non-Walrasian Baseline Model. Structural Change and Economic Dynamics, 62, pp. 512—528. 2022.
DOI:https://doi.org/10.1016/j.strueco.2022.06.001新しいウィンドウが開きます

研究者情報
小川翔吾 :研究者総覧新しいウィンドウが開きます